東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)13号 判決
原告主張の請求原因事実は、全部当事者間に争いがない。この事実によれば、本件審決は、原告主張の違法があることが明らかであるから、取消を免れない。
よつて、原告の請求を認容する。
〔編註〕本件における当事者の主張は左のとおりである。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
被告は、昭和四二年七月一日原告を被請求人として原告の権利に属する登録実用新案第七九九三六九号、名称「継目なし雨とい集水器」(昭和三七年一二月二九日出願、昭和四一年四月一九日登録)につき実用新案登録無効の審判を請求し、昭和四二年審判第五〇九四号事件として審理された結果、昭和四四年一一月二五日「本件登録実用新案を無効とする。」旨の審決があり、その謄本は、昭和四五年一月一二日原告に送達された。
二 本件登録実用新案の要旨
下部に無底円筒の脚管2が形成されており、上部には漏斗状の無蓋角筒孔が形成されている丸抜きした亜鉛鉄板一枚からなる本体1の軒どいとの嵌合せ部の両側には椀状の落込口4・4´が穿設されており、前記無蓋角孔の上端にはアール状口縁3が設けられ、たてどいと接合される脚管2の先端部に小径の管5が設けられている継目なし角形雨どい集水器の構造(別紙図面(〔編註〕省略)参照)
三 本件審決理由の要点
本件登録実用新案の要旨は、前項のとおりである。構造的要件と加工技術的要件の混在を整理してみると、1下部に無底円筒2が形成されており、上部には無蓋角筒孔が形成されている本体1の軒といとの嵌合せ部の両側には椀状の落込口4・4´が穿設されており、たてといと接合される脚管2の先端部に小径の管5が設けられており、2本体1は丸抜きした亜鉛鉄板一枚からなつていて、無蓋角孔の上端はアール状口縁3とされているとの二要件からなる継目なし角形とい集水器である。これを「プレス便覧」(昭和三三年発行、以下「第一引用例」という。)および登録第二〇四四四八号意匠公報(昭和三七年一月三〇日発行、以下「第二引用例」という。)と比較検討すると、第二引用例は意匠公報のためとくに構造上の説明がないが、周知の雨樋集水器から考えると、第二引用例には前記1に該当する構造が表わされている。
次に、前記2と第一引用例とを比較してみると、第一引用例には「本体が丸抜きした亜鉛鉄板からなつている」点(二二九ページ)、「角孔の上端はアール状口縁にされている」点(二三〇ページ一〇行から一七行まで)がそれぞれ記載されている。なるほど、第一引用例の二二九ページに記載されているのはコツプ状のものであるのに対し、本件登録実用新案のものは集水器である点において一応相違するが、本体の形を一枚の円板から変形させて得たという点では同じであるといえる。そうすると、本件登録実用新案の要旨は、第二引用例の構造のものを第一引用例に記載されている加工技術によつて得たものに該当する。本件の集水器と第一引用例のコツプ状のものとは物品を異にするが、両者は筒状の本体という点で広い意味の同一物品に属するから、第二引用例の構造をえるのに第一引用例の加工技術を適用することは、当業者にとつてきわめて容易に考えられ、結局、本件登録実用新案は、実用新案法第三条第二項に違反して登録されたから、同法第三七条の規定によつて無効とすべきである。
四 本件審決を取り消すべき事由
本件審決は、次の二点において認定判断を誤つた違法があり、取消を免れない。
(一) 本件審決が本件登録実用新案の構造的要件について、第二引用例には本件登録実用新案に該当する構造があらわされていると認定したのは誤りである。
すなわち、第二引用例にあらわされている樋じようごの構造をその図面からみれば、
(イ) 本体の上面(平面図)は将棋の駒のような形をした無蓋筒孔をなし、上端面は水平である。
(ロ) 本体前面(正面図)の上端部には細幅テープ状の膨出縁を形成し、その膨出縁に連続して前面に垂下させた数条のひだを設けている。
(ハ) 左右両側面(左側面図および右側面図)の各上端部に、半円形落込口を穿設している。
(ニ) 本体下端部(正面図、背面図および左右の側面図の各下端部)にたて樋と連結する脚管を二段に設け、その上段の太い脚管と本体上端部(正面図、背面図および左右の側面図)との間の連結面は、大きな円弧により上端部より下端部に至るにしたがい円筒を形成している。
これに対し、本件登録実用新案の構造は、
(イ)´ 本体(1)の上面において、前面と左右両側面の三方を大きな円弧で囲まれた角形(第六図)を形成しており、口端にアール状の口縁(3)を形成している。
(ロ)´ 本体(1)の角形口縁(3)より脚管(2)に至る迄の間、前面傾斜し(第二図および第三図)、左右両側面は前面に比し僅かに傾斜し(第一図)、背面は垂直をなしている(第二図および第三図)。
(ハ)´ 本体(1)の左右両側面の上端部に、落込口(4)、(4)´を穿設している。
(ニ)´ 本体(1)の内面は、前面、背面および左右両側面の四面によつて上端部より下端部迄角孔が連続し、下端部において彎曲し脚管(2)に連続している。また、脚管(2)の先端に小径の管(5)を連続形成している。
この構造による集水器を狐面型と称し、雨水の収容量の多いのを特徴とする。
そこで、引用例と本件登録実用新案との構造を比較してみると、次のとおりの相違が認められる。
(イ) 両者は、本体の上面および上端面の構造が相違する。
(ロ) また、両者は、本体の上端部より脚管に至る迄の間の周側面の構造が相違する。
(ハ) この結果として、両者は、本体内部の筒孔の容積が相違し、引用例のものはラツパ型と称して容積が小さく、本件登録実用新案のものを狐面型と称し容積が大である。
その結果、引用例のものは、その構造ラツパ型と称して本体内部の容積が小さく、雨水の収容量が少ない。したがつて、この樋じようごは雨量の少ない地方に使用せられる。これに対して、本件登録実用新案にかかるものは狐面型と称して本体内部の容積が大きく、雨水の収容量が大であるから、雨量の多い地方に使用せられる。
(二) 本件審決は、第一引用例二二九ページおよび二三〇ページに記載の加工技術により本件登録実用新案の加工が容易にできると認定した。しかし、この認定は、次の理由により誤つている。
すなわち、第一引用例の二三九ページおよび二三〇ページに記載されているのは、コツプの絞り方と上端部の円形口端を縁巻きにすることの解説である。この解説は、コツプの絞り方と縁巻きについてであつて、ロクロ機より取外した後本件集水器のごとく上端の口部を角形に変形し、本体と脚管との間、連続面を設けて狐面型に変形することについては、何らの解説も行なわれていない。したがつて、ロクロ機より取外した後の加工行程は、引用例以外の加工技術によつて行なわれる。第一引用例に記載する程度のロクロ加工だけで本件の集水器が完成すると解するのは、飛躍した判断であつて誤つている。
本件集水器の加工技術的要件は、丸抜きにした一枚の亜鉛引鉄板を用いて本体と二段の脚管とを一体的に形成することにあるが、本体の構造については雨水の流入に最も適するように配慮し、かつ、軒どいとの接合にも適するようにしておかなければならない。更に、又雨水の収容能力をできるだけ多量にしておくことが、雨量の多い地方に使用するための必要条件である。
この集水器をつくる順序として、一枚の円板を、ロクロ機に取付けて廻転する本体と二段の脚管とを形成した木型に圧着して、木型通り二段の脚管と本体とを絞り出すのであるが、この行程は、ロクロ加工に属する。第一引用例は、このロクロ加工、然も単にコツプ状のものの絞り加工の記載にすぎない。本件集水器は、前述の条件を必要とするから、これだけでは仕掛け品にすぎず、未だ完成品となつていない。これを製造過程における前半行程とすれば、後半行程において商品として完成するのである。すなわち、後半行程においては、雄雌の金型を用いて明細書添付図面どおりの構造に成形するのであつて、この行程は特に難かしさがあり、本体と脚管との隅角部が破れ勝である。これを克服して、狐面型構造を備えた本件集水器ができあがるのである。したがつて、前半行程に属するコツプの絞り方と縁巻きの解説だけをもつて後半行程の成形ができるとした本件審決の認定は、誤りである。
被告の答弁
原告主張事実は、すべて認める。